仙人講座/第13期 (平成15年度)

■第1回講座  平成15年7月24日 遊学館

基調講演
「新しい人生の見つけ方」
映画監督 羽仁 進さん

 ビデオコンクールなどの審査に依頼されていて、ここ2、3年は山形に来る機会が多いという羽仁さん。山形の風土は素晴らしいし、それを作品にする応募者の映像も独特の感覚がって素晴らしいと、まずは山形の人たちにエールをおくります。ワインについてもご自分は“うるさいほうの一人”で、原料の山形産ブドウは昼夜の温度差が大きい地域で育つため美味しいブドウ、つまり美味しいワインができる。ブドウは日本では山梨・甲府産が一番だと思われていたが、この昼は高温で夜になると急に冷える温度差が美味しいブドウを育てていると指摘、まだ一度も登ったことのない山寺への思いを馳せます。山寺は芭蕉の「奥の細道」で知り、一度は行ってみたいと思っているといい、仏教の広がり方などに独特の歴史観を披露されました。仏教は鎮護国家として国政をあずかる者の役に立たせようと信仰されてきたが、平安時代になって反省が生まれ、仏教の神髄を極めるため山の中に寺院を建てたのだろうと推理します。そういえば羽仁さんは映画監督であると同時に、一方で「羽仁進の日本歴史物語」などの著作もある歴史家でもあり、話題は自由闊達に広がっていきます。その博識ぶりは得意分野のアフリカ野性動物の生態研究から歴史、物理学、そして小学校時代の体験を通した教育のあり方まで広がります。

 最近の発達心理学では、大雑把にいえば人間の赤ちゃんの知能はまだ解明されていないが、大体2歳から9歳までの期間は論理的といわれる科学的な思考力が最も発達するといわれ、10歳ごろになって初めて他の人たちとの比較に気が付く。“言葉”でも、大人になってから外国語を学ぶことは苦痛だが、例えば外国で生まれた日本の子供は、お父さん、お母さんよりも早く外国の言葉を覚えてしまい、もちろん日本語も覚えるという。つまり母国語は関係がないということがだんだん分かってきました。9歳ごろまでは知能的にも“自分が一番偉い”と思っていた透明なものが、10歳ごろになって自分の周りの現実の世界、人間の心はもっともっと複雑だと初めて気が付くというわけです。また、10歳から14歳までは自分に対する自信がなくなり、他の人は素晴らしいと気が付くようになるといいます。このように年代毎の心の状態が解明されることで、これまでの日本の教育がうまく行かなかった理由はこの辺にあると思われると指摘されました。

 発達心理学からすると、小さい子供に心優しい童話を聞かせても良く理解できない。この時期には天才的なこと、例えば数学のような学問を10代で教えます。過去にも10代で天才的な業績を挙げた人は結構おり、芸術ではピアノ、詩歌なども若い時代に才能が出るといわれます。逆に長編小説とか交響曲など、複雑な構成のものは老年期に最高傑作を書いた人がこれまた結構いる。小学校4、5年生から中学生までは数学、英語など頭で考える知的な学問ではなく、心に訴える複雑な文学などに触れさせるべきだと提言。事実ドイツなどではそうした心にしみる突っ込んだ文学などを教えているということです。日本では、小学3年生ぐらいであまり効果のない児童文学を教える一方で、4年生以降は頭の良し悪しにかかわらず皆が学びたくないという英語や数学などの難しいものを教え、文学的なものは取り上げない傾向にあり、子供の問題はこれからもずっと考えなければならない非常に大きな問題。大事なことは一人一人が大人として接している子供をもっと知ってもらいたいと、力を込めて訴えていました。

 受講生に対しては第二、第三の人生を考えたとき、自分と違う世界を持っている人ともっともっと付き合い、体験を豊富にすることで生活が豊かに、そして面白くなるだろうと、提言されました。 

実践講座
「リラックス術~ヨガと足法」 
ヨガインストラクター 橋谷田 和子さん

「ヨガは、あいさつに始まりあいさつで終わる」と受講生一同、椅子に座って合掌のあいさつ。地球の中心から出た光が体の中心を通り、天井まで光が届くイメージで背筋を伸ばし肩の力を抜き、深い呼吸を意識することが大切で、こうして気持ちをリラックスさせます。これは瞑想でもあり、ヨガの基本とされます。この後、受講生たちは首回し、ライオンのポーズなど次々に基本動作の指導を受けました。

 講師の橋谷田さんがヨガを始めたのは22年前、30歳のときでした。早い時期に家を建てたものの周囲は知らない人ばかり、頼りの夫は出張の多い仕事で2歳と4歳の子供を抱えて不安やイライラが募り、体調をこわしてしまったといいます。なんとか元気を取り戻したいと、たまたまヨガのいい先生に出会いカウンセリングをしてもらったこと、もうひとつ本との出合いが「立ち直りのきっかけになった」ということです。初めの10年はヨガを習う立場、後は指導する立場として続けています。これまで続けてきてヨガは“心と体の健康に大きく役立つ”ことを実感していると、しみじみお話になりました。

 体の調子がいまいちだったころの昭和56年「ヨーガ入門」(佐保田鶴治著)という本の中のある体験談に、「ヨガを続けているうち、執着心と妄執のとりこだった性格がなんとなくカラリと晴れ、その都度ふっきれが早くなった」そして「行雲流水、明鏡止水の域に達するも遠からずと信ずる」と書いてあり、これは何事にもこだわらずに成り行きに任せて、落ち着いた静かな心境になれるのもそう遠くないということ。この体験談に大きな感銘を受け、ヨガを続ける原動力になったということです。

 ヨガは「ポーズ」「呼吸法」「瞑想」の三つからなり深くつながっています。ポーズ、呼吸法は何となく分かるようですが、瞑想をもう一度解説しましょう。椅子に座り背筋を伸ばして肩の力を抜き、微笑みを浮かべながら呼吸に意識をもったとき、雑念が取り除かれリラックスできます。これが基本動作です。心を落ち着かせようと集中したときに感じるもの。つまりヨガは集中すること、感じること、そして意識したり、客観的に観察することが必要とされます。そしてこれを繰り返しトレーニングすることだといいます。

 「足法」もリラックス法の一つで2時間も掛かりますが、いつでもできる基本の実技指導を受けました。

■第2回講座  平成15年8月21日(木) 遊学館

基調講演
「100歳食入門」
総合長寿研究所所長 永山 久夫さん

 永山さんは古代および長寿村の食生活を長年にわたって調査研究し、健康・長生き・ボケ知らずとしての和食の優れた効能を提唱、長寿食と健脳食(ブレーン・フード)の研究者としても有名です。現在も日本経済新聞・月曜夕刊に「長寿の食卓」を連載中で、その取材のため各地の長寿村を訪問し、執筆活動を続けています。そこで分かったことは長寿村に共通している習慣があるということ。それは“早起きしてちょっと汗をかく程度の散歩の後、朝食の前に梅干しでお茶を飲む”ことで、長寿の理に適った生活をしていることだといいます。

 即ち、お茶の渋みにはカテキンが含まれ、人間の老化や病気の元となる活性酸素を消す(抗酸化)成分が含まれている。カテキンは熱いぐらいのお湯(70℃)をお茶に入れ熱いうちに飲むのがいいそうです。出来ればアズキ餡の入った饅頭などを食べながらお茶を飲むとなお結構。アズキには赤ワインなどに含まれるポリフェノールの中のアントシアニンが含まれていて、これも抗酸化作用に大きな力を発揮するからです。また、梅干しは見るだけで唾液が出ます。唾液にはパロチンやペルオキシターゼという成分が含まれ、膝の軟骨などを丈夫にしたり病気を防ぐ免疫力を高めたりと、若返りのホルモンといわれるぐらい。日常生活の中でも積極的に酸っぱいものを摂り、唾液を良く出して体の免疫力を高めたい。

 こうしたことからも日本の伝統的な和食には、大豆を利用したみそ汁や納豆、豆腐などのほか、魚なども調理されていて、これらの食材が健康で長生きのポイントだと指摘されました。最後に、脳の老化を防ぎ、血圧を安定させる効果のある「ギャバ」は胚芽米で増やすことが可能で、その正しい「ギャバライス」の作り方を伝授しましょうと、図入りの解説をいただきました。ざるでといだ胚芽米を炊飯器に入れ3時間以上水に浸け、炊き上げるのがこつ。こうするとアミノ酸が分解してギャバができます。ギャバは長生きの薬でこれを増やして食べましょう。

実践講座
「いつまでも若く・健康で」 
山形短期大学助教授 江口 千鶴子さん

 “いつでも、どこでも、ただでできる運動”の実戦に入りました。
 私たちの体は筋肉、骨、内臓、毛髪、脳などと肉体を形成するのはすべてが細胞から成り立っています。何十億という単位の細胞は使わないでいると少しずつ減少していく。そして、細胞の“残高”によって元気の度合いが違う。筋肉の細胞が元気だと体全体が元気になる。それは体を支えるのは筋肉だからであり、筋肉が衰えると思うように自分をコントロールできなくなる。普段から運動などで筋肉を鍛えておく必要があると、分かりやすく解説されました。
 さらに頭を使うというのは勉強とか、何かを考えることばかりではなく、手と足の運動によって脳が刺激されるので、手指の繰り返し運動は脳の活性化にとても有効だと、笑いの渦のなかで具体的な運動を実践しました。

■第3回講座  平成15年9月18日(木) 遊学館

基調講演
「いのちの感受性・・・加齢の醍醐味」
作家 落合 恵子さん

 一カ月前にも“男女共同参画社会”の講演で来県したという落合さんは個性的な服装で登場し早速、年を重ねる「加齢」について落合さん独自の考え方を披露されました。これまでは人生の午前中、つまり若さこそが最も輝く季節であると位置づけられ、年を重ねることはマイナスだと、今もって考えられている風潮・文化があるという。落合さんはこうした考え方に対して人生の午後の輝きもまた味わい深いものあがると、自らの年齢を明らかにします。そして何歳になったからあれが出来ない、これも難しい、もう歳だなどということを捨てて「これまでやりたくとも出来なかったこと」「自分はどう生きたいのか」一つ一つ点検していくと、色々なことが見えてくると指摘、何かを決定し何かを始めるのに“遅すぎる”ことはない。その人が決定した日、即ち第二の誕生日を提案されました。第一の誕生日は偶然で生まれるが、第二の誕生日は自分でつくることができる。これを大切にしたいと落合さんは力説されました。

 落合さんは書くだけでなく行動する作家として家族や社会的な問題、教育、環境問題など、作家以外の分野でも幅広く活動され、実際に母の介護のほか子供と女性の本の専門店の経営や月刊誌の発行、自然食・有機栽培農産物・無添加食品の店やレストランの経営と行動派です。先般、NHKからの依頼で高齢者の自立支援の取材に欧州各国へ行く機会があり、各国の事例を紹介されました。その中でデンマークの“特養”ではプライバシー確立に驚かされたという。部屋ごとにシャワーが付いていて、中にはお客さまを迎えるためのもう一部屋のあるところもあった。クオリティーオブライフ(生活の質)の高さが伺えたという。またドイツの見本市では砂浜を走る車椅子が展示されていた。製作者は「年をとったからといって、また体が不自由だからといって、海で深呼吸する喜びをあきらめる人生はおかしいですよ」と当然のように言っていたことを思うとき、年を取って小さくなって生きている今までの日本の年寄り観とは全く違う考え方だと印象的だったという。

 こうしたことから、落合さんは歳を重ねることは素敵なことだ。体の機能は落ちるかも知れないが人生の景色の深さと広さが味わえる。そのためにも(1)心の健康(2)体の健康、そして(3)自分の権利を主張すること―が大切だと結ばれました。

実践講座
「薬草と健康」―体にやさしい自然の薬―
県衛生研究企画専門員薬学博士 笠原 義正さん

 高齢社会の進行とともに、国民の健康志向が高まり、質の高い生活の実現に向けて、日常の食生活を見直す予防医学的な考え方が広く浸透してきました。
 食には三つの機能性がありますが、これは日本が世界に向けて発信した考え方です。一次機能としては栄養、二次機能はおいしさの分野(嗜好)です。これらについてはよく知られていますが、三次機能として生体調整機能をあげています。これは病気の予防、治療の補助、老化防止など一定の健康を保つ機能のこと。この三次機能は薬草の作用にちかい役目を持っています―と前置きし、薬草の歴史、薬草の上手な使用法、薬草の用い方、薬用植物と食品、食の機能など、身近な薬草などについて、パワーポインターを駆使して一つ一つ解説されました。

■第4回講座  平成15年10月28日(火) 遊学館

基調講演
「私の生き方」
女優 南田 洋子さん

 テレビの仕事で右手が腱鞘(けんしょう)炎になっているという南田さんはズボン姿で登場。「私の生き方」と題して、明治生まれのおばあちゃんに可愛がられ、その生き方に大きな影響を受けた子供時代から、戦時中の集団疎開の体験、映画界へのデビュー、俳優・長門裕之との結婚、そして長門の父・沢村国太郎の介護など、七十年の人生を振り返って「人生幾つになっても、例え下の世話になっていても堂々と、自分の背中を子や孫に見せるべきだ」と、介護を通して体験した“人間の尊厳”の大切さを、たっぷりの時間を割いてしみじみとした口調で話されました。南田さんは昭和61年、縁があって俳優・長門裕之と結婚したが結婚してすぐに義父・沢村国太郎が脳卒中で倒れたことで、いろんな勉強をさせられたといいます。介護の内容については平成10年4月に出版された南田さんの著書「介護のあのとき」に詳しく載っています。

 お話の中でいろいろ悩んだ末、本格的に自分が介護しようと実家の母に相談に行ったら「介護はそう甘いものではない。実の親の私を見限りなさい」と言われ、そのたった一言で「これから老いて行く自分のためにも勉強のつもりでやろう」と決心、心が軽くなったといいます。少しずつ痴呆が進む状態の中、自尊心を傷つけないで紙パンツを履かせる苦労、ついには一万円札に“うんち”を付けて、部屋中散らかし異臭を放つ状態が続きます。しかし、自尊心のある義父を叱るわけにもいかず、心を込めてそれぞれの事態に対処しながら介護を始めて14年、痴呆がひどくなった状態から1年後、無事に看取ることができたという。介護する人への感謝の気持ちを大切にしたいと、結ばれました。

実践講座
「日頃からできる筋力の老化防止」
県保健医療大学理学療法学科 伊橋 光二教授

 加齢などで体力が衰えるのを防ぐ「筋力トレーニング」の方法について、筋肉トレーニングは過剰なオーバートレーニングにならない、適度な休息をとるなど、あくまで個人の状況に合ったトレーニングが大切だと、強調されました。特に、生活習慣病を防ぐためにも有酸素運動が望ましく、(1)水中歩行(2)ウオーキング(3)エレベーターに乗らず階段を上るなど、日頃の心掛けで筋肉の老化が防げること、中でもウオーキングは1回当たり30分程度の早歩きを、週に2~3回することで結構鍛えられる。また、日頃から脈拍について関心をもつことを提案され、1分間で110~120位の有酸素運動が望ましい。

 さらにトレーニングは単調になりやすく、持続するにはちょっとした工夫が必要で、仲間や家族と一緒に行うとか記録をとるなどいろいろ考えられるが、県運動公園・べにばなスポーツセンターや山形済生病院の健康増進センター『めぐみ』などで、個人に合ったトレーニングプログラムをつくってもらうのもひと工夫です―と、アドバイスがありました。

■第5回講座  平成15年11月26日(水) 遊学館

基調講演
「上手なおつきあいのすすめ」
集団力学研究所副所長 三角 恵美子さん

 三角恵美子さんは、人間関係を学問的に研究し実戦活動を行っている一方で、生涯学習ボランティア指導者コースを取得されたり、生涯学習一級インストラクター、リーダーシップ・PM指導士、ホームヘルパー二級などの資格を持つ努力家です。講演では自らの家族のことや体験に基づいた豊富な事例を紹介しながら、“上手にお付き合いするには聞き上手になりましょう”とアドバイスされました。

 私たちは今、人間関係が大変難しい時代に生きており、どうすれば人と上手に付き合っていけるか、これといった“正解”が見つからないのが現状です。なぜこんなに人間関係が難しくなったのか、昨年亡くなられた三角さんの上司で世界的に有名な三隅二負二先生は、次のように分析します。それは、人間の欲求が変わってきたからだというのです。日本は、戦前戦後の貧乏な時代から物が豊かな時代に変わって、それまで食べることに夢中で人間関係など考えるヒマがなかったのが、豊かな時代になって食べることへのエネルギーが薄れてしまった。そして次の欲求“仲間意識”へと変化していったこと。最近では、仲間意識の中でも「私は」という自己主張が顕著になっており、自己中心に物事を考える人達が多くなっているのが現状。だから人間関係をうまくやるには「私はこう考えるが、あなたはどう考えるでしょうか」と、ひと呼吸置いた人間関係が求められるのではないかと、三角さんは提案されます。

 自分が楽しく生きて行こうとするならば、自分の健康に気をつけて明るい笑顔で頑張ること。その頑張りも自己犠牲ではなく、そうすることがハッピー、ハッピーという、軽い“乗り”でやっていただきたい。三角さんの考える上手なつきあいとはまず(1)聞き上手になること(人の話をじっくり聞くことで聞いてもらったという満足感を相手に与える。相づちを打つことで効果は倍加する)(2)観察上手になりましょう(この人は何を言いたいのかよく観察する)(3)自分が話す段になったら何を話したいのか整理して、相手の反応・目を見ながら話すことも大切。話し上手、聞き上手を通していい人間関係を築いていきましょう。

実践講座
「山形伝統食の温故知新」
県食文化料理研究家 古田 久子さん

 山形は四季がはっきりしていて、地形的にも全国に誇れるブナ林があり、そこには山菜の宝庫といわれるほど、山形の山菜は素晴らしい。また、村山地方の「だし」もその一つで、夏の食欲のないときに「しそ」「ねぎ」「みょうが」「しょうが」「なす」「なんばん」「きゅうり」の7種類を刻んで混ぜるだけの料理だが、これで食が進み、栄養的にもビタミンやカロテンが豊富に含まれた素晴らしい料理に仕上がる。私たちは先祖から受け継いだ郷土料理を次の世代に引き継ぐことが大事だと指摘されました。一方、時代のニーズに合った新しい郷土料理の開発も大切。山形には「べにばな」があり、古田さんは昭和50年代に初めて食材として取り入れました。いろいろ試行錯誤を繰り返し、いまでは県内の温泉旅館などで新しい郷土料理として出せるようになっているということです。ただ、郷土料理として発展させるためには地域ぐるみで、各家庭まで浸透しなければ発展は難しい。“真っ白いご飯に真っ赤なべにばな”の普及を目指して、今後も県などを通して提言していきたい――と熱っぽく結ばれました。

■第6回講座  平成15年12月11日(木) 遊学館

基調講演
「歴史に見るいきいきしたシニアライフ」
作家 童門 冬二氏

 小説始め文学や物語などでは昔から「起、承、転、結」という筋があり、人生にも当てはめて考えられてきた。社会に出たばかりの20代は「起」で「承」は30代「転」は40代の不惑の年、これまで「結」は50代以上の人たちで完結を意味していた。現代ではなかなか完結できなくて「結」なしの状況。いまは「起、承、転、転」の時代だと童門さんは指摘します。最後の「転」は転落ではなく、今までと同じように緊張感を持って完全燃焼させていくこと。それは「私」から「公」への転換だというのです。「公」はだれかのため、地域のためにという考え方に向けていきたい――とまずはアドバイス。現代に生きるシニアの心構えをお話になりました。

 童門さんは、いまの時代を三つの歴史的状況が重なった“混合時代”と位置づけます。一つは戦国時代としての実績主義が中心になろうとしていること。二つ目は幕末開国時代で、G7などで時には内政干渉と思われるほど、日本の経済政策などに注文が厳しい。三つ目はITの発達・普及である。このITは、情報収集から選択肢・解決策までコンピュータがやってくれる。自分中心に選ぶ傾向が強く家庭では子が親を、学校では生徒が先生を、職場では部下が上司を選ぶなど、下剋上が起こっている。この状況を克服するにはそれぞれの自己改革が必要になってくる「私」から「公」への転換である。それは歴史上でも数多く見られることで、中でも上杉治憲、後の鷹山の“改革”は有名です。常に相手の立場にたって物を考え、自分の持っている思いやりや温もり、優しさを確かめていこうというものです。鷹山は興譲館という学校をつくり、能力に応じた教育が大切だと教えています。なんと戦国・幕末・ITの三つが重なった現代社会の人間関係にぴったり当てはまります。鷹山の偉さはここにあると結ばれました。

 童門さんの座右の銘はルーマニアの作家・コンスタンチンゲオルギーの言葉「たとえ世界の終末があしたであろうとも、私はきょうリンゴの木を植える」。皆さんはそのリンゴの木を持っています。その実を惜しまないで世の中に差し出し、“転”が終わるまで続けていただきたい。

実践講座
「温泉!効用と利用の仕方」
山形県温泉療法研究会 片桐 進氏

 山形県は44市町村どこにでも温泉が散在している温泉県。温泉は地中からわき出る水で25度以上ならすべて温泉であり、それ以下でも含まれる物によって温泉に指定される法律があります。温泉は昔から湯治という医療に関係が深い行為があるものの、医療とは認められていない。つまり、保険が効かないのが現状です。片桐さんらは平成3年に肘折温泉に温泉療養相談所を開設し、湯治と医療の関係を調査しています。温泉は心と体を癒し、湯治のリフレッシュ効果を期待したいと、次のように指摘されました。

 入浴は、一般的には一日に5回以上は浴槽に入らないこと、60歳を過ぎたら一日3回止まり。入浴法としては体をよく洗って、かぶり湯も20回以上してから浴槽に入りたい。入浴の前後にコップ一杯の水分をとるなどが大切。もちろん飲酒後、食事直後の入浴は避けたいし、また真夜中に一人で入浴するのは絶対止めること。思わぬ事故に結び付く。温泉は心と体を癒してくれる最高の施設です。自然の恵みを十分味わって温泉を利用したい。

■第7回講座  平成16年1月22日(木) 遊学館

基調講演
「生きがいの創造」
青森県文化アドバイザー 鈴木 健二氏

 昭和63年NHKを退職後、請われて熊本県立劇場の館長となり、同県内で衰退していく神楽、獅子舞、文楽人形芝居などの伝承文化の復元を始め、地域文化の担い手育成など、数々の文化的事業をなし遂げた鈴木さんは、自力で地域の価値を創造する芽が育ったとして、平成10年館長を辞任。いま、青森県知事の懇請で戦中戦後の3年間、旧制弘前高校に学んだ津軽への恩返しにと、日本初の試みである文化アドバイザーとして、平成11年から青森県立図書館と近代文学館を拠点に新しい活動を行っています。講演はNHK時代の“物知り博士”をほうふつとさせる語り口。会場は笑いの中にも知識の豊富さに圧倒されていました。

 平成11年4月、青森県へ赴任した鈴木さんは、5月から県内各市町村を回り始め、これまで68市町村を訪問しました。鈴木さんのいう文化とは芸術、芸能だけでなく環境や福祉、スポーツ、教育など心に関するものはすべて文化の範疇です。朝9時から夜9時まで、いろんな人と会って話をし活動を展開し、平成12年から「減塩運動」を行っているという。また「読書普及運動」も手掛けており、県庁内に“読み聞かせ運動支援センター”をつくって、そこを拠点に各市町村を回る。これまで50市町村を回った結果は参加者が1万人を超え、読み聞かせボランティアも500人を突破しました。やはり、やれば出来るのだと確信し、二つの運動は2030年を目標にしているということです。

 鈴木さんは、昭和47年ごろ新聞や雑誌などに「食事の間はテレビを消しましょう」と提唱されました。テレビ局へ勤めていて何だといろいろ内外から批判があった。しかし食事は一家団欒の時間。その間だけでも家族の話が弾むようにしなければ、テレビばかり見ているようでは、日本の家族は崩壊すると警告したのです。あれから20年。日本の家庭から「会話」がなくなってしまったと残念がる。

 ここで暗算の九九の問題や、仏教の意味、ご先祖さまのこと、仏壇にまつわる話など、豊富な知識で奔放に話題が広がります。最後に、あいさつの大切さを知っている皆さんから「おはよう」「ありがとう」のあいさつを家庭の中から始めていただきたい。教育が悪い、学校が教えない、政治が悪いという前に、まず自分から始めれば世の中もきっと変わるだろうと、結ばれました。

修了式

 第7回仙人講座の基調講演終了後、平成15年度仙人大学校の修了式が行われました。(財)県長寿社会推進機構理事長の國井一彦学長が「本日、123名の皆さんが新たに仙人の仲間になりました。皆さんは人生80年時代のモデルとなって、この講座で学んだことを各地で実践し、広げていただきたい」とあいさつ。仙人ライセンスの授与に続いて、寒河江市の小野豊道さん(83)が修了生を代表して「ここで学んだことを家族や地域の多くの人々に広げていきたい。修了生のバッジなどがあれば、活動の場がもっと広がるのでは?」と、提言を込めたお礼の言葉がありました。最後に県福祉部長寿社会課の三浦課長がお祝いのあいさつがあり、全員が参加して記念写真を撮影しました。
 仙人ライセンスを取得した人は第1回から数えて1,532名となりました。